「サモアで暮らす」 鳩山幹雄

1 陸のカニはあっさり味


ウムで料理した南国の味、ヤシガニ(右)
ウムで料理した南国の味、ヤシガニ(右)

 サモアのごちそうの代表はウム料理だ。サモアに限らず、太平洋の島々では非常にポーピュラーな 調理法方で、バナナやココナツの葉と焼けた石を使って、ポークや魚介類、イモ類などを蒸し焼きにする。 味は塩やココナツクリームでつけるためあっさりしている。

 日曜日にはこのウム料理を作る家庭が多い。材料は伝統的にポークが高級とされるが、日本人には ロブスターの方が魅力的に違いない。サモアでいうロブスターは、ハサミのある種類ではなく、長いヒゲを持つ日本のイセエビと同じような種類だ。大きなものでも一匹千円程度、日本のイセエビと比較すればたいしたことはない。

 珍味の代表はパロロだ。太さ2ミリぐらいの濃い緑色をした ミミズのような虫で平常はサンゴ礁のなかにいるが、年に一度生殖活動のために海面に浮かびあがるのだという。何でも月齢や潮の干満、海水の温度などと関係が深いらしく、毎年十月か十一月の満月の数日後に、それも決まった海域にしか現れない。稀少な珍味ゆえ、時期になると国中がお祭り騒ぎになる。歯ごたえは柔らかく、鍋料理の春雨のよう。味はいその香りが強く、サザエのわたに似ているが、パロロの方がいくらかまろやかだ。

 我が家では焚きたてのご飯にのせてパロロどんぶりにした。一同「うまい、うまい」と言って楽しんだ。最近ではなかなか味わえなくなったごちそうの一つにヤシガニがある。オカヤドカリ科に属し、体重が1キロを超えるほど大きくなる。形はまさに貝殻から抜け出したヤドカリといった感じで 少々グロテスクだが、最近はあまりとれないらしい。

 そんなヤシガニを初めて味わった。サバイイ島に住む知人が、ウムで料理したポーク、サメ、ヤシガニなどを持ってきてくれたのだ。ヤシの実を食べて育つからかココナツの風味が口中に広がり、独特の甘味がなんとも言えず、まるでほっぺたが落ちそう、と言いたいところだが、そこまで飛び抜けたおいしさではない。

 カニに似て美味ではあるが、陸に住むからか海のカニよりもややあっさりしている。身はつめや足にあり、みそはほろ苦い。

 日本の冬のカニがちょっぴり恋しい。



朝日新聞中部地方版より転載
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