「サモアで暮らす」 鳩山幹雄

2.懲りずにビンゴに情熱


ビンゴは村の女性の週末の楽しみだ。
ビンゴは村の女性の週末の楽しみだ。

 青年海外協力隊員のクニさんに誘われてモアタア村のビンゴに参加した。友人のアバというサモア人がこのビンゴに人生を賭けているという。平日は家政婦として働くアバにとって、土曜日の午後のビンゴは唯一の娯楽らしい。

 海辺の公民館に何十人ものビンゴ狂が集まる。大半が女性だ。床に腰を下ろし持参のビンゴボードを並べる。開閉蓋付で何度でも使える。ボード1枚のエントリーに50セネ(約25円)必要だが、たっぷり2時間ほど楽しめる。クニさんは一人で3枚、我が家は一家で4枚、アバはなんと25枚だ。

 鳥小屋のような四角い箱の中で、下から噴出す空気に踊らされるピンポン球が順に受け皿に納まる。係りがその球をとり「ヌー(N)トルリマ(35)」のように各列の頭文字と番号をコールする。1列ビンゴしたものが賞金を受け取る。そのままゲームは続き、2列、そして3列ビンゴすると1ラウンドが終了する。これを繰り返し行う。

 賞金は4ターラのこともあれば十数ターラのこともある。途中で二度スペシャルがある。四面印刷の別売りのシートを2ターラ(約百円)で購入する。賞金ではなく賞品たが賞金の数倍の価値なので一段と気合が入る。スペシャルは一面の25の番号全部を塗りつぶす。四面のうちのどの一面でもいい。

 ついに手元の一面がリーチになった。あと一つ、セフルタシ(11)でビンゴだ。だが次の瞬間横で、「ビンゴ」。勝者は、缶詰や砂糖、粉せっけんなど持ちきれないほどの賞品を受け取った。残念、と思ったらもう一人選ぶといいゲームは続行された。その瞬間「セフルタシ」が呼ばれた。念願の「ビンゴ」だ。

 となりでクニさんがつぶやいた。「ビギナーズラックですね。」

 5キロのビスケット2箱、砂糖4キロ、米2キロ、粉せっけん3箱… …で占めて50ターラほどの賞品を受け取った。クニさんは一度ビンゴして賞金12ターラを獲得したがアバは一度も勝てなかった。帰り道石ころを蹴飛ばすアバの後姿が目に入った。悔しさを察し、賞品を半分お裾分けしたが、自分で勝ち取ったのではないからか、あまりうれしそうではなかった。

 きっと今後も懲りることなくビンゴに情熱を注ぐであろうアバに 勝利の女神が微笑むことを祈ることにしよう。


朝日新聞中部地方版より転載
home:::index::: next