「サモアで暮らす」 鳩山幹雄

10.日曜日は静寂そのもの


サモアのあちこちにある立派な教会
サモアのあちこちにある立派な教会

 地方の村落はもちろんのこと、平日あれほど車の往来が激しいアピアでさえも、日曜日は驚くほど静まり返る。銀行や役所が休みなのは当然だが、スーパーに雑貨店から土産物屋にいたるまで、ほとんど全ての建物が堅く扉を閉ざす。開いている建物といえば、観光客相手のホテルと 一部のレストランくらいだ。キリスト教国サモアでは日曜日は安息日なのだ。

 なにせ国民の90数パーセントが信者だというのだからその浸透ぶりは生半可ではない。仕事はもちろんのこと、畑の手入れも草刈さえも教えに反する。とにかく肉体労働はしてはいけないのだ。野外で騒ぐのも好ましくない。海水浴もテニスもゴルフもせず静かに過ごすべきなのである。

 朝は正装して教会へ。昼には家族でごちそうを食べ、シエスタを決め込む。そして夕刻再び教会へ足を運ぶ、というのが、「サモア流日曜日の過ごし方」なのだ。

 だが、もちろん全てが敬虔な信者とは限らない。中には納税同様 「国民の義務」くらいの感覚で教会へ向うものもいるかもしれない。あるサモア人が言った。「在住外国人の多くは日曜日になるとよく海水浴に出かけたりするが、本当はサモアではそれは慎むべき行動なんだ。日曜日はサモアではホリデー(休日)ではなくてホーリーデー(聖日)なんだ」

 だが「ビーチ巡りが唯一の娯楽」というサモアに、わずか一、ニ週間の日程で 訪れる旅行者や他教徒の在住外国人にとっては、日曜日といえども貴重な休日である。義務だからと教会へ出向き、風習だからといっておとなしくシエスタなんぞしている場合ではない。

 サモアの風習を知ってか知らずかいそいそと海水浴へと繰り出す。うまくしたもので、くだんの海水浴客を、「神のご加護よりも現金収入」という資本主義経済観念を身につけた村人たちがちゃっかり浜で待ちうける。だが、たいていのサモア人家庭では、日曜日はやはり安息日であり、大人も子供もみな一日静かに過ごす。

 我が家は教会へは行かないが、日曜日を安息日とすることに異議はない。今のところ「食って寝る」というまことに怠惰にして放漫な一日に満足している。ただ、運動不足がわずかばかり気にかかる。 


朝日新聞中部地方版より転載
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