「サモアで暮らす」 鳩山幹雄

4.ココアライスはいかが


カカオ豆をいり、うすに詰めてつく
カカオ豆をいり、うすに詰めてつく

 サモアでは、食後に、午後のひと休みに、ココ(ココア)を楽しむ。ただし、繊細なパウダーを湯で溶かして飲む日本のココアとはまったく異なる。カカオの木からもぎ取ったカカオ豆を鉄板でいり、つぼ状のうすに詰めて棒でつぶすのである。その昔、精米するのに一升瓶に米を入れて棒でついたのと 似た感じだ(といってもぼくには経験がないが)。

 何度も何度も根気よくつくと、カカオがだんだん砕かれ、小さくなっていく。そのうちにクチャクチャクチャと音をたてるようになる。カカオには油分が含まれるため、さらさらな粉にはならず、ペースト状になる。いつが終わり、ということもなく、もういいだろう、とキリをつけた時が 出来上がりだが、長くつけばつくほど、より繊細なココアペーストが出来あがる。

 市販のココアのようにミルク分は含まれていないので、色は茶色というよりもかなり黒に近い。 ポリ袋かなにかに入れると、香り以外は色も感触もまるで八丁みそのようだ。そのペースト状のココを沸騰した湯で溶かし、好みに合わせて砂糖を加えれば、サモア式ココアの出来上がりである。

 いくら丹念に豆をつぶしてもやはりかけらは残るので、ときおりそれが歯にあたる。そんな時は迷わず噛み砕くとよい。カカオの香りが口の中に広がる。

 サモア人のココ好きは、飲み物だけにとどまらない。ご飯もココで炊くことがある。つまりココア味のご飯が炊きあがるのだ(砂糖も加えるので甘い)。 出来上がりは通常のご飯というよりも、おかゆのような感じだ。 いやどちらかといえば、たっぷりのココア汁の具として 米が入っているといった方が適切かもしれない。

 昔、アメリカでご飯に砂糖と牛乳をかけて食べるアメリカ人を見た時には、とても試食する気にならなかったが、このココアライスはなかなかうまい。いや、実にうまい。お汁粉が好き、お好み焼きにはマヨネーズが欠かせない、という方は是非お試しあれ。


朝日新聞中部地方版より転載
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