「サモアで暮らす」 鳩山幹雄

6.釣り三昧で迎えた新年


常夏の島に正月の季節感はない
常夏の島に正月の季節感はない

 気温三十度を越す海水浴日和が続く。ピンとこないままクリスマスが過ぎ、大晦日になり、新年を迎えた。子供たちは十二月初旬から二ヶ月間にわたる年度末の休暇に入り、正月が来るといっても特に喜ぶ様子はない。サモアの人々はお役人をはじめ労働者の大半がクリスマスの二、三日前から二週間ほど休暇を取るが、年末に大掃除はしないようだ。

 私たちは十二月三十日に汗だくでこの行事を挙行した。でも、雑巾二枚にホウキが一本、半日足らずで終わる。午後はマーケットへ。元日から四、五日は休みとなるので、食料などを買いだめする人でごった返す。

 買い物の後、近くのアピア湾へ。目的は釣りである。といっても、さおを持つのは「サモアでは釣り三昧だ」と意気込んで 道具一式を持参した十歳の長男一人。その長男も「釣り入門」のたぐいの本から詰め込んだにわか知識しかない。他の面々は、長さ一メートルの枯れ枝に糸を結び、仕掛けをつけて垂らすという子供だましのような釣りなのだが、それでも毎回、二、三匹釣れるから不思議である。

 釣った魚は塩焼きにして夕食に。「日本にいたら大晦日にのん気に釣りなんてやってられないだろうな」 と思いつつ、よく三十一日もいそいそと海へ。元日も二日も「塩焼き、塩焼き」と唱えながら、ドジな魚を待ちうけた。

 サモアでは大晦日から新年にかけて、日本のような厳かな雰囲気が 漂うわけでもなければ、花火があがるわけでもない。一部の教会で年越しの礼拝があるほかは、街の酒場がにぎわう程度である。

 それにしても日本社会は、大掃除、年越しそば、除夜の鐘、しめ飾り、鏡餅、初詣で、年賀状、お年玉、おせち料理、雑煮、……と、古来の風習をなかなかきちんと守り続けているなぁ。

 大掃除以外の「日本風」は「年越しうどん」を食べたことだ。そばが無理なら、と子供たちがねだるので小麦粉をこねてうどんを作り、ネギをたっぷりかけてすすった。新年は三日から四日にかけて台風の影響で天候が崩れ、塩焼きも三日の夕食ではあきらめた。家族が一同雨空を恨めしく眺めつつ自宅で過ごした。

 のんびりと且つ怠惰に。


朝日新聞中部地方版より転載
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