【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

ひと晩で降り積もった雪
ひと晩で降り積もった雪
町の外れの公園でソリ滑り。みんなこの雪を待っていた
町の外れの公園でソリ滑り。
みんなこの雪を待っていた
ミシガンの正しい冬景色
ミシガンの正しい冬景色



第11回 ちょっと季節外れの白銀ライフ


ひと晩で30センチの積雪に子供たちは大喜び

北海道とミシガンはほぼ同じ緯度。気候も類似している。10月末には雪が舞うことも珍しくなく、春が訪れるのは5月。ところがこの冬は例年に比べれば異常とも言えるほど暖かく雪も少ないまま3月に突入。「このまま春が訪れるかもしれない」と、期待外れのマイルドな冬に妻も子供たちも少々物足りない様子。「ミシガンの冬は寒い。気温はマイナス20度まで下がるし雪もたくさん積もる」と聞かされていたのだから無理もない。

ところが先日待望のドカ雪。土曜日の夕刻本格的に降り始めた雪は翌朝には30センチ近く積もった。一面の銀世界に子供たちは大喜び。朝から雪だるまやかまくら作りに精を出し、午後は雪合戦。末っ子は大好きな自転車に股がり、手付かずの雪野原を走り回ると、雪のキャンバスにできたわだちを、芸術でも描いたかのように眺めながら満足そうに笑みを浮かべた。

日暮れ近くになって長女に友人から電話があった。

「ミッシェルがこれからスレディング(ソリ滑り)に一緒に行こうって誘ってくれたんだけどミッシェルの家まで送ってくれる?」

「ミッシェルの家は遠いし、田舎だからいや」

と妻が即答。

「ねぇ、送ってくれる?」

娘はあきらめずに頼んだ。

「いや」

「ねぇ〜、お願い」

「いやっ」

「ねぇ〜、お願い」

結局長女のしつこい猫なで声に根負けして送ることに。

生まれて初めてのマイナス18度

ソリと聞き、息子たちも同乗。家族全員でミッシェルの家を目指した。町中の道路は雪掻きが済んでいたが、ミッシェルの家が近づくにつれてみんな不安に。 「大丈夫? 四駆じゃないのにこんな雪道進めるの?」 「滑って動けなくなったらどうするの?」 そんな悲観的予想は無視し、サモアで培った「まずはやってみる精神」で雪道をとろとろと進んだ。ノーマルタイヤの後輪駆動車ながらも無事到着。ほかの友だちを待つというミッシェルと長女を残してひと足先にソリ滑り用の丘があるという公園へ向かった。

初めての道を迷いながら公園に到着。すでに6時を回り、日没まであと20分ほど。親子や若者たちがプラスチックのソリで豪快に滑り下りるなか、突然の大雪でソリがない我が家は段ボール箱を代用。滑りの悪い段ボールに座り、舵が取れずに後ろ向きになって丘を滑り落ちる息子たちを妻と2人で見守った。

まもなく太陽は地平線に隠れ、急激に寒さが増した。剥き出しの顔面への突き刺すような刺激とジーンズを通して伝わる冷気に思わず体が震え、つま先は感覚を失った。「寒すぎるからまた明日にしよう。多分学校は休みになるから」と、なんとか子供たちを言いくるめて帰宅。

翌朝6時半、子供たちは「休校の知らせ」を期待しつつテレビニュースを見入った。軒並み休校のテロップが流れるなか、この地区の公立校に限っては「遠方の住人のみ休校」という変則判断。外気温はマイナス18度。1997年から南国サモアに暮らした我が家にとってはじつに5年ぶりの極寒体験。幼い頃の記憶など薄れてしまった9歳の末っ子にとっては生まれて初めて同然。 「それにしてもいいねえ、ここの暮らしは。灯油を足す必要もないし、外はこんなに寒いのに、室内はいつでも半袖でいられるほど暖かいんだから」 と日本時代のあの冬の寒い朝のファンヒーターの灯油切れシーンを思い出した妻が主婦らしい発言。

午前7時、粉雪がちらつく世界を、オーバーコート、ニット帽、マフラー、手袋で完全防備した子供たちは渋々バス停へと向かった。「寒くて目が痛い」と末っ子がマイナス18度体験を語った。 長期予報によると向こう2週間ほどは真冬日が続くという。どうやら週末までにソリを入手し、再びあの丘を目指すことになりそうだ。



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