【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

いくつもの目が凝視するなか、老眼鏡をかけてギターを分解するサム
いくつもの目が凝視する
なか、老眼鏡をかけて
ギターを分解するサム
年代物のバイオリンを手にするリズ
年代物のバイオリンを
手にするリズ
写真で音が伝わらないのが残念。十八番の「ホテル・カリフォルニア」を演奏する息子トリオ踊
写真で音が伝わらない
のが残念。十八番の
「ホテル・カリフォルニア」を
演奏する息子トリオ



第12回 人生は楽しむためにある?


80歳にして現役ライダー

日曜日の午後、隣町に暮らす友人サムを訪ねた。個性豊かで多彩な才能の持ち主のサムに子供たちを会わせたいという以前からの願いがやっと叶った。 サムは先日80歳の誕生日を迎えたが、まだまだ信じられないほど元気。ギターを弾きメカにも強く口も達者。そのうえ時にはハーレーに股がる現役ライダーというスーパーおじいさんで、3回り以上も年齢差のある奥さんのリズと2人暮らし。

4人グループ2組が、ガラクタの山の中から材料を見つけてスノーモービルや水陸両用車など、その日の課題を10時間で作り上げてその性能を競う。「ジャンクヤードワォーズ」というテレビ番組のファンの息子たちは、到着とともにサムのウラ庭とガレージを探索。 廃車、鉄パイプ、古タイヤ、ドア、トラクター等、積み上げられたガラクタの山を目の当たりにし、しばし感動。もちろんサムや息子たちにとってはガラクタなどではなく間違いなく宝の山。

長男は、持参したエレキギターの修理をサムに依頼。購入してまだ3年弱だがネックが反って音がきれいに出なくなってしまった。高校生が80歳の年寄りに修理を頼むのだからなんだかさかさま。老眼鏡をかけてさっそくギターを分解にかかったサムの手元をいくつもの目が凝視した。なぜか通常とは逆方向に反っているらしく、手を焼きながらも、サムは慣れた手つきで弦を緩め、ネジを外し、反りを調べ……と、作業に没頭した。

キャリア1年の「ホテル・カリフォルニア」

暇を持て余し気味の末っ子に、リズがサムのエレキを、次男にはエレキベースを用意した。元バンドでギターを演奏していたというだけあり、サムの家にはギターが20本近くある。加えてバンジョーにギターのネックを取り付けた6本弦の手作りバンジョーやリズが弾くというマンドリンやバイオリンも数本、それにアンティークピアノ。

サムが修理を続けるなか、長男もエレキを手にし、息子たち3人は十八番の「ホテル・カリフォルニア」を弾き始めた。サモアに暮らした最後の半年、元ミュージシャンという日本人から直々にアドバイスを受けていた息子たちは、その日本人の演奏するホテル・カリフォルニアが気に入り、毎日カセットテープを聞きながら練習に励んだ。だからこの1曲に限ってはキャリア約1年。長男はリードギター、次男はベース、そして末っ子はサイドギター兼ボーカル。大音量アンプを通して流れるエレキサウンドに合わせて「On a dark desert highway...」と、9歳にはミスマッチな詞を搾り出すように歌った。 曲が終わると思わずサムもリズも拍手を送った。親の欲目もあるだろうが、14歳、13歳、9歳のトリオにしてはけっこう聴き応えがあった。

妻はもっぱらリズと主婦の会話を楽しんだ。近所のコミュニティーセンターで各種アート教室の講師を務めるリズは、アーティストとしての才能も幅広い。絵画、木版画、ステンドグラス、セラミック、ペイントブラシ……と、アートと名のつくことなら何でもできてしまう。そのうえソファーの皮の張り替えや自動車、ボートの内装なども手がける。昨年は隣町の消防署のデモ用トレーラーにペイントブラシを施した。その模様を語った写真と新聞記事を手に、リズはアートの魅力を熱く語った。

サムのおかげで長男のエレキギターは購入時のクリアーなサウンドを取り戻した。妻はリズから木版画を1枚お土産にもらいご機嫌。陽気なサムとリズの2人から、楽しく生きるヒントをもらった気がする。



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