【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

ほんの数カ月前に完成したばかりの新校舎
ほんの数カ月前に完成した
ばかりの新校舎
50ドル獲得した長男のポスター。当日のプログラムの表紙絵に採用された
50ドル獲得した長男の
ポスター。当日のプログラ
ムの表紙絵に採用された
ヒップホップ・グループのブレークダンス
ヒップホップ・グループの
ブレークダンス



第15回 アートに目覚めた長男


ポスター・コンテストで賞金50ドルを獲得!

先日、妻と2人で長女と長男の通う高校の「ワールド・カルチャー・デー」というイベントに出かけた。昨年完成したばかりの新校舎は公立校とは思えないほど立派。吹き抜けのホールにスカイライトの続く広々とした空間は、まるでショッピング・モール。

保護者も歓迎という学校行事なのに全校行事ではなく、対象は外国語クラスを選択している生徒のみ。ほかの生徒は1日中通常授業に出席しなければならないので、外国語を選択していない長女にとってはいつもの1日。だが、昨年9月からスペイン語を受講している長男は朝からウキウキ。ほかの生徒が授業を受けているあいだに体育館でワイワイガヤガヤと楽しい思いができるのだから当然といえば当然。

高校生にもなると、どこの家庭でも学校での出来事を逐一親に報告などしなくなるようだが、わが家の場合、17歳の長女は帰宅後比較的饒舌にその日の出来事を話す。ところが14歳の長男は例によってよほどのことがなければ語らない。だから長女には無関係のこの行事は、普段なら親も知らずに過ごしたはず。ところがこのイベントに限っては1カ月以上も前に長男から知らされた。

「なに、それ?」

学校から50センチ四方ほどの画用紙を抱えて帰宅した長男に妻が尋ねた。

「ワールド・カルチャー・デーのポスター・コンテストに参加することにしたんだ。優勝すると賞金50ドルもらえるから」

それから3〜4日ほど、長男は帰宅すると毎日数時間、50ドル獲得を夢見てポスター製作に専念した。父親の助言を無視して描いたポスターは、宇宙飛行士とETもどきの宇宙人が、火星から地球を眺めているという平凡な構図。楽天的な長男以外、家族の誰ひとりとして長男のポスターが50ドルを勝ち取るとは思わなかった。

ところが数日後、学校から戻った長男は誇らしげに伝えた。「優勝したから50ドル手に入る! これでやっと新しいスケボーが買える」

ヒップホップの4要素

会場の体育館入り口の受付で、表紙に長男のポスターが印刷されたプログラムを受け取り中へ入ると、いかにもメキシコ人といった出で立ちの男性数人がスペイン語の歌を熱唱していた。続いての2時間はオハイオ州クリーブランドからやってきた6人のヒップホップ・グループ。まずは観客席の高校生と同年代らしき3人によるブレークダンス。体育館いっぱいに響きわたる音楽に合わせて軽く飛びはねた後、背中や頭頂部でコマのようにくるくる回ったり、片手で逆立ちしたり……と、順にサーカス擬きの離れ業を披露。会場は拍手喝采の渦。

拍手が止むとグループ・リーダーが観客席に「ヒップホップの4大要素は?」と質問を投げかけた。場内は突然シーンと静まり返ってしまった。ヒップホップの音楽や踊りを楽しむことはあっても理論的分析などしないだろうから返答できなくても不思議はない。 ちなみに4要素とは、ブレイクダンス、ラップ、スクラッチ(DJがレコードを手で擦り、音楽に変化をつける)、それにウォール・ペインティング・アートとのこと。

講義に続いてブレークダンスの即席レッスン。会場から選ばれた高校生数人が、1、2、3、4……と番号に合わせて模範ステップを習う姿を遠巻きに眺めながら、こっそり覚えて子供たちを驚かせてやろうと一瞬思ったものの、年齢を考えて断念した。頭で回転したり片手で体を支えたりといった芸当は、マイムマイムやオクラホマミキサーを踊るのとはわけが違う。いまさら少しばかり努力したところで、できるはずもない。

ブレークダンスレッスンはまだ続くようだったが、ひと足先に会場を後にした。



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