【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

英語を母国語としない住民のための英語クラス
英語を母国語としない住民の
ための英語クラス
それぞれが一品持ち寄るポットラック・パーティー
それぞれが一品持ち寄る
ポットラック・パーティー
博物館に並ぶ数々の標本
博物館に並ぶ数々の標本



第16回 妻が勉強家に変身!?


受講料も教科書もタダ

ミシガンに越して以来、妻も子供たちに負けじと英語を習っている。コミュニティーセンターが開く、英語を母国語としない住民対象のクラスで、この地区に暮らす外国人なら誰でも受講できる。受講料はすべてタダ。配布される立派な教科書もタダ。授業は午前10時から12時の2時間で、いちおう月・水曜日は上級者、火・木曜日は初心者と分かれているが、無視して毎日通う生徒もいる。さらに金曜日は、隔週ペースで市内の博物館や催し物などを訪ねる各種課外レッスンもある。

生徒の大半は、夫の転勤についてこの地区に越してきたという中年女性で、韓国人、中国人、パナマ人、トルコ人、パキスタン人、コロンビア人など、国際色豊か。日本人も妻のほかに4〜5人いる。いちおう毎回教科書に沿って授業が行なわれることになっているようだが、話し好きな主婦が何人もいるので、すぐに脱線してしまうらしい。

「サモア人の英語はゆっくりで分かりやすくてよかったけど、ここの人はみんな早口だから困っちゃう」と日頃つぶやく妻の英語力上達にどれほど役立っているかは少々疑問だが、バラエティーに富むクラスメートとのおしゃべりを通して、最近の妻は、イスラム文化や韓国の風習など、異文化に対する視野を急速に広めている。

それにしても帰宅するたびに妻が語る授業風景から「言語学習最適期をとうに過ぎた中年が外国語を習得することの難しさ」がひしひしと伝わる。と同時に、「レベルも主要言語も文化も国籍もバラバラなうえ、なかにはタダだから通っている程度の意欲の生徒もいるようなごちゃまぜクラス」を教えることの難しさを想像すると、(英語の先生の)経験者としてつい講師のマリーに同情してしまう。

パーティーや社会見学も立派な授業

講師のマリーは、通常授業だけでなく歓迎会やお別れ会を催したり、生徒を自宅へ招いてお料理会やパーティーを開いたりもする。1度「夫婦同伴で」と誘われて、マリーの自宅で毎年開くというポットラック・パーティー(参加者それぞれが何か1品持ち寄るというアメリカによくあるパーティー)に参加した。

テーブルには、それぞれが持ち寄った各国料理が並んだ。妻が持参したのは「散らし寿司の素」を混ぜて作った手抜きインスタント寿司。ほかにも日本人女性が3人いたが、そのうち2人は妻とまったく同じ発想だったよう。4人中3人もが持参した散らし寿司を眺め、参加者はみな「きっとこれが日本を代表する料理」と思ったことだろう。

春の訪れとともにマリーは授業の一環として社会見学を取り入れた。その第1弾の文化・自然史博物館見学に、妻に付き添って出かけた。入場無料のこぢんまりとした博物館には、ミシガンの歴史やネィティブ・アメリカン(先住民族)の暮らしなどがジオラマで紹介されていた。この地区で発見されたマストドン(1万年前に絶滅したマンモスによく似たほ乳類)の化石やミシガンの野生動物のはく製なども数多く展示されていた。グループの特権で舞台裏も見学が許され、はく製の作成過程などについても知る機会を得ることができた。

妻の英語力はさておき、マリーのおかげで、もしかしたら何年暮らしても知らずに過ごしたかもしれない博物館へ足を運ぶことができ、わずかばかりだがミシガンについての見聞を広めることもできた。せっかくミシガンに暮らすのだから、ミシガン通を目指して今後もマリーの企画する社会見学には積極的に参加することにしよう。



HOME:::INDEX:::NEXT