【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

Mの離婚裁判が行なわれた裁判所。入口は空港並の警戒体制
Mの離婚裁判が行なわれた裁判所。
入口は空港並の警戒体制
年間の結婚生活にピリオドを打ち、Aと2年半暮らした家から家財道具を運び出す
年間の結婚生活にピリオドを打ち、
Aと2年半暮らした家から家財道具を
運び出す




第17回 できれば避けたい離婚裁判


旧友Mが3度目の離婚

先日、友人Mに頼まれて、Mの離婚調停裁判の傍聴に妻と2人で裁判所まで足を運んだ。些細なことでも裁判沙汰にするアメリカでは、離婚となれば必ず弁護士に依頼する。費用もときには何千ドルもかかるという。

アメリカ人の離婚は比較的明るく、離婚後も仲の良い友達でいたりという場合も珍しくない。今回で3度目の結婚生活を終えるMの場合も、最初の2回は円満に離婚した。裁判所では「必要ならばMの人格を証言する」といって駆けつけたMの最初の奥さんLとも出会った。でも今回の離婚は少々こじれ、Mにとってはとんだ災難。

アルメニア滞在中にMは、当時10歳そこそこだった2人の子供を抱えて貧困生活に苦しんでいたAと出会った。そして、英語の話せない3人をアメリカに呼び寄せ、結婚。国際結婚の常で、言葉や文化の壁に苦労の連続だったようだが、1999年には閑静な住宅街に庭の広いすてきな一軒家を購入。一見平穏な家庭に思われた。 ところが2人の関係は冷え続け、数カ月前から急速に仲がこじれた。離婚話と同時に、Mは暴行の濡れ衣を着せられた。Aが「夫が友人を招いてどんちゃん騒ぎをするし、そのうえ私に暴力を振るうので恐ろしくて離婚が成立するまで一緒に暮らしていられないのでMを家に近づけないでほしい」と家庭内暴力で訴えた。

相手が誰であれ、Mが暴力を振るうような性格でないことは、Mを知る人なら誰でも自信をもって語る。だが、この種の家庭内暴力の報告を受けると裁判所はことの真偽を調べることなくパーソナル・プロテクション・オーダー(PPO)と呼ばれる法律を適用しなければならない。PPOは、訴えられた者がその人物だけでなく住まいに近づくことも禁止する法律で、そのためMは、ある日突然身に覚えのない罪のために自宅に近づくこともできなくなってしまった。Mは我が家に数日暮らした後、アパートを借りた。

もはや離婚は主流

離婚率が50%を越えるアメリカでは今や離婚は日常茶飯時。ミシガンで出会った旧友をざっと10名ほど思い浮かべてみると8人は離婚経験者で、そのうち2人はMのように複数経験者。裁判所に駆けつけたMの弟も、Mの息子も御多分に漏れず離婚経験がある。何せ、じつの両親と子供という核家族は15%にも満たないという。

実際高校に通う娘の友人の多くも、片親、未婚の母、再婚家庭等、家庭事情は複雑。離婚、再婚により複雑化する家庭環境が、数々の青少年非行の引き金になっているのかもしれない。これも、自己主張、平等、個人主義など、自由を尊重するアメリカの特徴だろうか。

長引けば丸1日かかるといわれたが、Mの裁判は比較的スムーズに運び4時間ほどですべて終了。自らの人格を弁護する機会を得られなかったことがMは少々不満気だったが、「無事財産分配も終えることができたのだし、以後複雑な家庭に縛られることもないのだから上出来」と同席した弟や息子に説得され、渋々頷いた。

一人ひとりが個々の自由を尊重すればするほど、結婚生活を維持することは難しくなる。先のことは誰にも分からない。でも、18年間連れ添った妻とは今後も仲良く暮らしたい。Mのような面倒は、我が身には無縁であると信じたい。



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