入り口に「インラインスケート 禁止」のサインがある建物もあるほど | 天候が許すかぎり毎日 インラインスケートで走り回る 末っ子 | アメリカングラフィティの 時代を彷彿させるレストラン。 今にもローラースケートを 履いたウエートレスが現われそう |
末っ子の自慢はローラースケート
「先生はね、あんまり上手じゃなかったよ。それに全然滑れない子もちょっとだけどいたよ。だからね、ボクね、無茶カッコ良く滑ったんだよ」 学校の課外授業で隣町のローラースケート場に出かけた末っ子が、帰宅と同時に興奮気味に語った。 ミシガンに越して間もなく、末っ子に「買ってぇ」と一番にねだられたのがインラインスケート。以来約1年半、天候が許すかぎり日課のようにほぼ毎日欠かさずインラインスケートを履いて走り回っているのだから、上手く滑れてもまったく不思議はない。 1960年代前半のカリフォルニアを舞台にした青春映画で、ジョージ・ルーカスの長編第1作として知られる『アメリカン・グラフィティ』(73年作品)ではローラースケートを履いたウエートレスがトレーを片手にスイスイと滑るメルズレストランが終始若者の溜まり場としてスクリーンに登場する。時代は変わって現在は4つのタイヤが一直線に並ぶインラインスケート(=ローラーブレード)へと進化したものの、今でもアメリカの青少年のあいだにスケート人気は根強い。我が家にも、息子3人それぞれのサイズのインラインスケートが揃っている。 滑らかな舗装路面のほとんどないサモアにずっと暮らし続けていたら、息子たちはおそらくローラースケートなどとは無縁のまま大人になったことだろう。当然のことながら、日々の行動の数々が意識の有無に関わらず取り巻く社会環境と密接に関連しているに違いない。 親の威厳は丸潰れ じつは先日、「お父さんには無理」という末っ子の挑発に乗り、インラインスケートにチャレンジした。「転んでケガするのがオチだから、お願いだからやめて」という妻の警告を聞き流しつつ、サイズの合う長男のスケート靴を手にして近所の高校へ。車1台見かけない日曜日の午後の駐車場はスケートの練習には最適。次男も、普段「何でもできる」と威張る父親の無様な姿が見られると思ったらしく、スケートボードに乗って後を追ってきた。 10歳の息子の指導に素直に従いつつ練習を開始。「こうやって膝を曲げて、つま先を外に向けてこうやって押し出すの」と説明しながら、スイスイと滑る息子の後ろを恐る恐る前進。くるっと回転したり片足で滑ったり、ジャンプしたりバックで進んだり……とこれ見よがしに走り回る末っ子を恨めしく見つめつつ、「忍耐」の2文字を頭に描き練習を続行。 傍目には1歳児がヨチヨチ歩きを試みるよりも危うい姿だったに違いない。スケート靴が若干小さいこともあり、15分ほどでつま先が痛くなってしまった。それでも「華麗に」とはとても言い難いが、何とか転ばすにトロトロ前進するくらいのことはできるようになった。 それにしても、スケートの得意な父親が幼い息子を指導する、というのなら絵にもなるし親の威厳も保てる。だが今回は、スイスイと滑る息子に、屁っ放り腰の親が指導を受けるという、言わば立場逆転。情けないがこれも現実。 親の威厳を自ら捨てるような行動を好んでとることなど日本に暮らしていたらおそらくなかっただろう。どうやらこれも社会環境の影響で、ミシガンに暮らすようになって親としての価値観がジワリジワリと変化しつつあるのかもしれない。 |