【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

コンサートを翌日に控え、練習に励むクラブメンバー
コンサートを翌日に控え、
練習に励むクラブメンバー
ステージに上がり本番直前のリハーサル
ステージに上がり
本番直前のリハーサル
末っ子の指導でバイオリンにチャレンジする高3の長女
末っ子の指導でバイオリンに
チャレンジする高3の長女



第31回 末っ子がバイオリンにチャレンジ


50ドルで3カ月お試し

10歳の末っ子がバイオリンを習い始めた。とても「バイオリン」という柄ではなく、どちらかといえばバスケットボールのほうが似合うアウトドア派なのだが、独学でギターを弾くようになって以来、ほかの楽器にも興味を示すようになった。5年生になって弦楽器クラブに参加できることになり、学校から案内を持ち帰った。

バイオリンというと、体の成長に合わせてバイオリンを買い替えなければならないとか、レッスン料が高額だったり……といった先入観があり、「おぼっちゃま」の楽器というイメージが強く、我が子には無縁だと思い込んでいた。 ところが、クラブ活動なのでレッスンは無料。バイオリンは楽器店との提携でレンタル料がかかるが最初の3カ月は50ドル、以後は毎月25ドルと良心的。加えて、そのレンタル料は、もしバイオリンを購入すると決めたならば、その支払いに充当されるシステムになっているという。息子に尋ねると「習ってみたい」と言うのでとりあえずは3カ月間試してみることに。 「じゃあ、もうすぐ『神田川』のイントロが弾けるね」という母親に、末っ子はあきれ顔を見せた。バイオリン=神田川という思考回路は確かに短絡。

弦楽器クラブの練習は週2回で火木の朝。授業後だといろいろと都合がつきにくいらしく、ゼロ時限と呼ばれる、1時限目の始まる前の1時間。1時間早起きしなければならないと知っても息子の決心は変わらないらしい。この弦楽器クラブは中学生と共同なので練習は中学校。ゼロ時限が終了するとスクールバスで小学校まで送り届けてもらえるが、中学校までは自力で行く必要がある。が、親の自覚の強い妻が喜んで送るというので話は成立。

わずか3カ月で早くもコンサート

瞬く間に3カ月が経過。末っ子が学校から「コンサート」の案内を持ち帰った。毎日バイオリンは持ち帰るが、普段練習をしているところをあまり見たことがない。 「どんな曲を演奏するのか、ちょっと弾いてみて」という母親のリクエストに応えて末っ子はバイオリンを取り出した。小さなバイオリンの端をキュッと肩とあごで抑え、なめらかに弓を動かした。バイオリンの下手な演奏は「耳が腐る」とけなされるほど聴くに耐えないとよく言われるが、不思議なことにけっこうクリアーな音が流れた。

末っ子がいかにもたやすく弾くのを見た長男と次男が「オレにもやらせて」と言って歩み寄った。いくら弦楽器とはいえ、ギターが弾けるからといってバイオリンが弾けることにはならない。案の定、長男も次男もまともに音も出せなかった。長女もチャレンジしたがなんとか音が鳴る程度。それなりに週2回の練習効果はあるようだ。

コンサートは木曜日の午後7時半で会場は高校の講堂。長男や次男は別に興味なさそうだったが、母親の命令で結局一家全員に長女のボーイフレンドが加わり会場に向かった。 意外と観客が多いのには驚いた。開演時間になり指導者が簡単な挨拶。演奏中のフラッシュ撮影は禁止という、なんだか本格的な規則にはちょっとびっくり。

まずは5年生の演奏。なにせ練習歴3カ月なのだから、期待するほうが間違っている。それでも練習量を思えば上出来だった。むしろ練習歴の長い6〜7年生のほうが、不協和音が目立ったように思えた。8年生の演奏はなかなかだった。ほんの30分程度だろうと思っていたが、結局1時間以上コンサートは続いた。

コンサート終了後、末っ子の耳もとでからかい気味に言った。 「良かったな。これでバイオリンも弾けるようになったし。もう続けて練習しなくてもいいだろ?」 すると末っ子は一瞬真顔になって答えた。 「えっ? 今やめちゃったら中途半端だから、もっと続けたいな」 果たして息子のバイオリンレッスンは今後も続くのだろうか。



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