【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

ミシガン中南部に比べると若干起伏のあるオハイオの景色
ミシガン中南部に比べると若干
起伏のあるオハイオの景色
S一家と記念写
S一家と記念写
シチューをご馳走になりながらS夫妻と3年ぶりの会話
シチューをご馳走になりながら
S夫妻と3年ぶりの会話



第35回 サモアで始まった交友がアメリカで復活…オハイオ紀行−2


車で片道9時間の旅

予定よりも1時間遅れの午前10時、なんとか自宅を出発。オハイオ州を目指して一路南へ車を走らせた。気温は4度でこの時期にしては異常なほど暖かいが、あいにくの雨。それでも通常この時期なら間違いなく雪になっていただろうから、不運というほどではない。

南下すること約1時間、州都ランシンにあるオリエンタル・フード・ストアーで小休止。「ぜひ妻に寿司の作り方を教えてください」と友人Sに頼まれていたので、海苔、寿司酢、カニスティック等、必要な和食材を入手。さらに昼食や給油、トイレ休憩、そしてエレキギターを物色中の息子たちの希望で楽器店でも1時間以上も道草を食ってしまったので、5時間が経過した午後3時になってもまだミシガンを脱出できずにいた。

「まだミシガンなのぉ? いつになったらオハイオに着くの?」と時折尋ねる末っ子に「もうすぐ、もうすぐ」と適当に返事をしながら車を走らせ、午後3時半を少々回ったころ、なんとかオハイオとの州境を通過した。州境といっても、道路脇に「WELCOME TO OHIO」の看板があるだけ。

「このあたりの景色はちょっと違うね。ミシガンよりも起伏があるみたい」

州境を越えて1時間ほど走ったころ、助手席から車窓の景色を眺めながら妻が言った。 「うん」と相槌は打ったものの、辛うじてまぶたを開けてハンドルを握っているという状態だったので、道路標識に気を配るのに精一杯。とても景色どころではなかった。

日没前に到着したいという希望はかなわず、目的地まであと50kmのあたりで日は完全に暮れてしまった。ヘッドライトが照らすほんの数秒の間に道路標識を読み取らなければならないので不安は増したが、出発から約9時間が経過した午後6時50分に、なんとか到着。車を止め、郵便受けで番地を確認していると、玄関のドアが大きく開きSが飛び出してきた。 「良かった。遅いからどこかで道に迷ってしまったのかと心配していましたよ。さぁ、早く入って」

3年ぶりの再会

「でもよく見つかりましたね。ここはわかりにくいから誰か来るときは、いつもウースター(約10km北西にある都市)まで迎えに行くんですよ。でもやっぱり日本人ですね。さすが」

サモア人ながら日本に7年も暮らした経験のあるSは、日本、サモア、そしてアメリカの文化や習慣、国民性の違いなどをよく心得ているので、発言の数々が知らず知らずのうちに民族的特徴に結びついてしまうようだ。すでに用意されていたシチューをご馳走になりながら、お互いの近況報告をしたり、昔話に花を咲かせたり、そして翌日の予定を相談したりした。

1歳8カ月になるSの娘のTとは初対面。妻が手渡したウサギのぬいぐるみは気に入ったようすでしっかりと抱きしめた。

「ありがとう。娘はウサギが大好きなんですよ。じつを言うと本物のウサギをつい先日飼い始めたばかりで、昨日やっと裏庭にウサギ小屋を作ったんですよ」

ぬいぐるみを抱きしめるTを、目を細めて眺めながらSが言った。

でもTは突然の訪問者に戸惑いを隠せず、終始渋い顔。赤ん坊好きな妻がいくら作り笑顔で「おいで」をしても、Tはママにしっかりとくっついたまま離れようとしない。子供たちもなんとかTを手なずけようとあの手この手でご機嫌をとろうと試みたが断念。そのようすを見ていたSが言った。

「初対面の人にはいつもこの調子なんですよ。でも明日になればきっと慣れて騒ぎ出しますよ。いつもはホントにウラバレ(やんちゃ)なんですから」

ほんの1年半前のことなのに、まるではるか昔の出来事のように感じていたサモア時代の思い出が、Sとのサモア語混じりのやり取りのおかげで呼び戻された気がした。



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