(上)アミッシュはどこへ行くにも この馬車で出かける。 (下)アミッシュの馬車に乗りこみ、 満足顔の子どもたち | 土産物店が立ち並ぶアミッシュ・ コミュニティの中心街。住居は シンプルでも、ギフトショップは カラフルでおしゃれ | ホテルやギフトショップなどの 情報満載の観光客向け 無料パンフレット |
近代文明を拒否するアミッシュ
S一家の案内でアミッシュ・コミュニティを訪ねた。祖父母は今なおアミッシュで、両親も成人するまではそのアミッシュの家庭で育ったというRが、簡単にアミッシュの暮らしぶりを説明してくれた。 アミッシュは17世紀のヨーロッパに端を発するキリスト教一派で、その特徴をひと口で言ってしまえば、近代文明を拒否し、昔ながらの地球に優しい生活を今なお守り続けていることだろう。 たとえば、ガスの使用は許されるらしいが電気は使えない。つまりテレビもラジオも電子レンジも電話も蛍光灯も禁止。建物はシンプルで質素。派手な外装色は許されず、たいていの家屋は白い。 なんと言っても一番の特徴はその服装と馬車。帽子、マント、シャツ、ズボン、スカートなど、数百年前と変わらないようなモノトーンの質素で古風な身なりで黒塗りの馬車に乗って移動するアミッシュに出会うと、一瞬タイムスリップしたように感じてしまう。 ただアミッシュ・コミュニティといっても、ごく普通の村落に単にアミッシュ家庭が数多く点在しているというだけで、区切られた一定の地域内にアミッシュだけが暮らしているというわけではない。向かいには、最新ファッションに気を配り、最先端技術を駆使した生活を送る現代人が暮らしていたりもする。 便利さの追求が国民の最たる関心事のようにさえ思われるアメリカに、そういった不便な暮らしを選ぶアミッシュが共存するそのコントラストが、アメリカならではのような気がした。 アミッシュの葛藤 アミッシュは経済活動には積極的で、バター、チーズ等の乳製品やハム、ジャム等の保存食品、それにテーブル、イス、ベッド等の手作り家具は広く知られ、観光客が集まる街の中心には、各種土産物店とともにアミッシュ製品販売店が軒を連ねている。 アミッシュの古風な身なりや黒塗りの馬車等は、観光客をひきつけるのに相当貢献していることも事実かもしれないが、たとえそういった目論見があったとしても、何百年も前と変わらぬ生活様式を今なお頑なに守り続けるアミッシュの人々を目の当たりにすると、宗教の影響力を意識せずにはいられない。 我が家が1997年から4年間暮らしたサモアでも、地方の村落では近代文明とは縁遠い暮らしを送っていた。今でこそ電気も普及し各家庭にテレビも備わるようになったが、地方の村落に育ったSの場合、アミッシュとさほど変わりのない子ども時代を過ごしたに違いない。 ただサモアの場合は、どちらかというと太平洋の孤島であるがゆえ、たまたま近代文明から隔離されたまま昔ながらの暮らしを継続していたに過ぎない。だがアミッシュの場合、すべての便利さが手に入る環境に暮らしながら、宗教的理由からあえて不便な暮らしを選んで送っている。 アミッシュに生まれ育っても、そういった生活様式に不満を抱く者もゼロではない。実際、Rの両親のように自立できる年齢になったらアミッシュをやめて普通の生活を選ぶ人たちもいる。とはいっても、アミッシュのように生まれた時から特定の価値観に厳格にしたがって育った者にとって、それまでの価値観と完全に相対する異次元の生活を始めることは、想像以上に勇気を要することに違いなく、誰にでも容易にできることではない。 休日を、旧友とともにのんびり過ごそうと思って訪れたオハイオで、予想外にも重い話題に頭を使ってしまった。でも、明日からはまたごく普通の暮らしが待っている。 |