【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

ダウンタウンの一角にあるテコンドー教室
ダウンタウンの一角にある
テコンドー教室
毎週火・木曜日の夕刻練習に励む息子たち
毎週火・木曜日の夕刻
練習に励む息子たち
板割りを練習する長男
板割りを練習する長男



第38回 アメリカ空手事情


目指すはブルース・リー?

長男と次男が再び空手教室に通い始めた。息子たちが最初に空手を習い始めたのは、サモアに暮らし始めて半年ほど過ぎた1998年初頭。技術科の高校教師として派遣されていた青年海外協力隊員がたまたま沖縄空手の有段者で、空いた時間にボランティアで子供たちに空手を指導してくれることになり、息子たちも喜んで加わった。その協力隊員は1年ほどで帰国したが、息子たちは自主トレを続けた。

ミシガンに暮らし始めてからも息子たちの空手熱は冷めなかった。近所にも3カ所ほど空手道場があることを突き止めたので、さっそく軒並み見学に出かけたところ、小学校の体育館や地域センターの多目的ホールを時間で間借りするという、どこも道場というよりは空手教室といった感じで、指導者はみなアメリカ人だった。

空手に限らずアメリカで各種武道はけっこう盛んだが、その内容やレベルとなると、とてもひと口では語れない。大都会なら選択の幅も広がる。だが、人口3万人弱の田舎町では贅沢は言えない。流派は異なるが内容的には息子たちに馴染みのある沖縄空手教室も見つかったが、蹴りを多発する華やかな空手に憧れる息子たちは、蹴りが少なく身体を硬く鍛えることを重視する地味な沖縄流を再び習う気はないようだ。

名の知れた流派の空手を日本人から学びたいといった選り好みをするわけではない。ただ空手の場合、流派が異なると技や練習内容も異なるため、途中で道場を変わるといろいろと面倒が多い。できれば一度習い始めたら同じ道場で学ぶほうが葛藤も少なく効率もよい。予備知識がなければどの流派を選んでもたいした葛藤が生まれることはないかもしれない。だが、息子たちはすでにいくらか基礎が身についているし、たとえ同じ流派の空手であっても、誰に学ぶかによりその内容に大きな差が生じることを知っているため、入門する決心はできずにいた。

いよいよ入門

息子たちは体育館の片隅で、学生時代空手部に籍を置いていた父親とともに自主トレを続けた。容赦なく蹴り、突きを入れる父親から身を守ろうとする一心で、息子たちのレベルはかなり向上したが、息子たちはできれば正式に学び、いずれは黒帯びを取得したいようす。

そんなある日、ダウンタウンに新たな道場を発見。さっそく見学に出かけた。空手といってもテコンドー(韓国空手)だが、この際細かなことにこだわってはいられない。どのみちこのあたりでは日本の流派よりも韓国空手のほうが幅を利かせている。それに韓国空手は全般的に突きよりも蹴りを重視するので、息子たちの趣味には合っている。

5段という40代後半のアメリカ人道場主と言葉を交わしたところ、なかなか好感が抱けた。月謝も平均40〜50ドルというこのあたりの平均に比べると若干値打ちなうえ、兄弟で入門する場合は家族割引があるというので入門を決断。日本人がアメリカ人から韓国空手を学ぶという複雑な関係が始まった。

息子たちの武道への憧れにどうにも理解に苦しむ妻はさらに続けた。

「それにしても、どうしてこんな野蛮なことがしたいの? とにかくケガだけはいやだからね。だれかケガしたらもう止めなさいよ。わかった?」

親として心配する気持ちもわからないではない。とはいっても武道にケガは付き物。妻の願いどおり、ケガすることなく練習が続けばいいのだが……



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