【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

親子で空手の基本技を披露
親子で空手の基本技を披露
横蹴りで板を割る末っ子
横蹴りで板を割る末っ子
ローカル新聞の第1面を飾った末っ子の回し蹴り
ローカル新聞の第1面を
飾った末っ子の回し蹴り



第41回 インターナショナル・エキスポ2003


ボランティアで空手を披露

昨年に続き、今年も「インターナショナル・エキスポ」に家族で出かけた。おもにこの地区に暮らす外国人(留学生が多い)が中心となって開催する年間行事で、毎年30カ国ほどからの人々が、ポスターや民族衣装、民芸品や書物を展示し、それぞれ母国を紹介する。コンピュータを利用してのプレゼンテーションやビデオで紹介するグループもあれば、郷土料理を披露する熱意ある留学生もいる。

昨年は、ほんの数日前にこのエキスポのことを知ったこともあり、何の協力もせずにただ食べて見学しただけだったが、今年は多少なりとも協力できればと思い、イベントの3週間ほど前に実行委員会に問い合わせた。 というのも、おそらく常時20〜30人の日本人がこの近辺に暮らしているはずなのに、昨年は参加国の中に日本は含まれていなかった。愛国精神などといった大げさな意気込みはないが、もし今年も参加する日本人がいないのであればボランティアを買って出るつもりでいた。が、今年は日本人も参加するというのでひと安心。

昨年は、ミシガンの州都ランシンからやってきたという中国武術のパフォーマンスが目当てでエキスポ会場に足を運んだ。実行委員会に問い合わせたついでに今年も何か武術関連の出し物があるかどうかを尋ねたところ、あいにくその種のパフォーマンスはゼロで、民族ダンスを踊るグループが2、3あるだけとのこと。そこで、急きょ空手のデモンストレーションを引き受けることにした。

末っ子がローカル新聞の一面に

「20年前にできたからって、もう若くないんだから、無理してケガしたりしたら嫌だから、止めたほうがいいんじゃないの」と、妻は非協力的だったが、サモア時代から空手のトレーニングを続けていて、現在は近所の韓国空手道場に通っている息子たちは大賛成。父子4人でエキスポを盛り上げることに一致団結した。

まずは武道とは縁のないだろう大半の観客に、空手、柔道、合気道、テコンドーなどの相違を簡単に説明した後、突き、蹴り、受けなどの基本技を紹介。そして一本組み手と型、そしてヌンチャクを披露した後、息子たちが試し割に挑戦した。

10歳の末っ子は厚さ1インチ(実寸2センチ)の板を横蹴りで、14歳の次男は正拳で割る。次は長男。2つのブロックを25センチほど離して立て、その上に厚み2インチ(実寸約4センチ)の板を4枚重ねて渡した。用意した板の枚数が限られるので、前日の練習では2枚重ねて割ったに過ぎないが、あまりに簡単に割れたので、なんとか4枚くらい割れると思ったらしい。 何百もの目が見つめるなか、長男は深呼吸を終えると思い切りこぶしを振り落とした。が、割れたのは3枚。それでも沸き起こった十分な拍手に息子は満足の笑みを浮かべた。

締めくくりは、自由組み手による父子対決。マウスピースをくわえてヘッドギアをかぶり、お辞儀をして向き合った。長男は15歳とはいえ体格はすでに大人。それに最近は突きや蹴りのスピードも下り坂の父親よりも自分のほうが速いと思っているのだから、そろそろ中年の父親を打ち負かすことができてもよい頃だと感じるらしい。組み手のたび、「70歳になっても絶対負けん」と豪語する父親の鼻を明かす機会を密かに狙っている長男は、今日こそはと、精魂込めて向ってきた。が、まだまだ負けるわけにはいかない。

1、2分技の攻防を披露したところで、そろそろ格好良く決めて締めくくることにした。力を入れて蹴り込んできた長男の横げりを、受けた右手ですくいあげると長男はバランスを崩して床に転がった。そのみぞおちへ間髪入れず、「ヤッ」という気合いとともにかかとを落とした。もちろん当てた瞬間に止めているのでケガの心配はない。ヘッドギアの隙間から長男の苦笑いが覗いた。ここまできれいに負けるとは予想しなかったらしい。

地元のローカル新聞が、翌日の朝刊にインターナショナル・エキスポの紹介記事を第1面に掲載した。簡単な取材を受けたので、息子たちもちょっと期待していたらしい。が、記事を目にして微笑んだのは末っ子ひとり。エキスポ紹介のたった1枚の写真が、末っ子の回し蹴りのアップ。写真どころか名前さえも触れられなかった長男と次男は不満をあらわにした。 「おれは2インチの板を3枚も割ったのに……」と、武道の心をまったく理解していない長男は、しばらくブツブツと不満を漏らしていた。



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