【五大湖のふところミシガンで暮らす】
鳩山 幹雄  

スーパーに設置されている缶やペットボトルの回収機
スーパーに設置されている缶
やペットボトルの回収機
街のはずれにあるリサイクルセンター
街のはずれにあるリサイクルセンター
使用済み書類等もリサイクルされる
使用済み書類等もリサイクルされる



第44回 ミシガンのリサイクル事情


空き缶もペットボトルも1本10セント

「今度空き缶返しに行くときは、絶対に一緒に行くからね」

知らぬ間にかなりたまっていた空き缶を妻がリサイクルしてしまったことを知った10歳の末っ子が念を押すように言った。

ミシガン州では、空き缶は簡単にリサイクルでき、ひとつ10セントになる。ペットボトルもサイズに関わらず1本10セントで、大手スーパーのリサイクルコーナーで換金する。自動販売機のような機械に空き缶を入れ、その数の記載されたレシートをレジに提出すれば現金に交換してもらえる。 でも、たいていの場合、買い物のついでに空き容器の換金をするので、そのときの買い物額からリサイクルによる換金額を差し引いてもらうようだ。リサイクルの際にはついでに買い物もしてもらえるよう、どこのスーパーでも、このリサイクルコーナーは店の一番奥の一角にある。

この1容器に対する10セントはデポジット(deposit)と呼ばれ、商品購入時に自動的に加算される。たとえば広告に350ミリリットルの缶入りの炭酸飲料が「1ダース、1ドル98セント(約16セント/缶)」とあっても、レジではその代金に自動的に1ドル20セント(10セント/缶)加算される。 つまり、もともと余分に支払ってある代金を、空き容器と交換で返却してもらうわけだ。だからもしリサイクルせずに捨てれば1缶捨てるたび10セント硬貨を捨てているのと同じことになる。たかが10セントかもしれないが、16セントという安価な商品に対してなのだからバカにならない。

実際、職がなくてあちこちのゴミ箱を回って、空き缶やペットボトル回収で当面の生活費を稼ぎ出しているらしい人も時折見かける。学生の多く集まる地区なら、その気があれば、おそらく1日200〜300本くらい回収できるだろう。大した収入にはならないが、日本に比べたら生活物価が格段に安いので、病気にさえならなければ、なんとか生活できてしまう。

鉄くずはマンホールの蓋に

先日、妻の通うコミュニティーセンターの外国人対象英語クラスが、課外レッスンの一環として市内のリサイクルセンター見学に出かけるというので便乗し、この地区のリサイクル事情を詳しく聞いた。

訪問したのは半径50マイル以内にある唯一のリサイクルセンターで、近辺の市町村からもペットボトル、段ボール、空缶、空ビンなどが持ち込まれる。リサイクルセンターに集まった鉄類は州内の民間会社に売られ、マンホールの蓋に変身。もっとも高値なのは段ボール類で、1トンあたり40ドルになるという。

ミシガン州がこのデポジット・システムを取り入れたのはもう4半世紀以上前の1976年で、アメリカ50州のなかでも先陣を切ってこのシステムを導入した州のひとつとのこと。その4半世紀前から、デポジットは空き缶ひとつあたり10セントだったというので、現在の物価と比べるなら相当高価だ。リサイクル・センターの所長も「学生の頃は、よく大学野球の試合会場などで、空き缶を集めて小遣い稼ぎをした」と話してくれた。 70年代後半と言えば、学生のアルバイト料は時給2ドル50セント($1=約¥300)。確かに空き缶を集めるほうがハンバーガーショップでアルバイトするよりも効率がよかったかもしれない。

アメリカの場合、リサイクル事情も州によってさまざまで、ハワイ州はつい最近になってこのデポジット・システムを取り入れたという。代金も一律ではなく、マサチューセッツ州のようにひとつ5セントという州もある。一昨夏マサチューセッツ州に暮らす従姉妹一家を訪ねたが、ほとんどリサイクルせずに平気で捨てていた。5セントだともったいないという感覚よりも面倒のほうが勝ってしまうのかもしれない。

限りある資源の有効利用は、環境悪化を食い止めるためにも消費者一人ひとりが意識し、努力すべきことかもしれない。だが、その過程があまりに複雑であったり、企業本位であったりすれば、多忙な現代人が素直に従うことは難しい。日本も最近ゴミの処分方法がかなり複雑になったと耳にした。消費者本位の無理のないリサイクルシステムの確立は、行政の重要な課題のひとつであると思うのだが……。




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